
出産したばかりだから行けない。その一言を放った直後、病室のドアが激しく叩かれた。
「開けろ! お前さっきの言葉、本当か? 誰の子だ? 俺の子なんだろう?」
肩で息を切らし、顔を真っ赤にした高志が立っていた。その背後には浮気相手のリナもいた。
「ちょっと、たしさん勝手に行かないでよ。今日は披露宴の最終打ち合わせの帰りなのよ。」
私は静かに告げた。
「出て行って。警察を呼ぶわよ。」
高志は土足で踏み入り、私の腕を掴もうとした。
「逃げられると思うな。DNA鑑定をしてもらうからな。もし俺の子なら引き取ってやる。お前には一歩も触れさせない。」
最低だった。彼は私を家から追い出し、別の女を妊娠させたはずなのに、都合良く自分の子だと主張し始めた。
私は震える声で言った。
「あなたは私を侮辱し、追い出した。縁は半年前に切れたはずよ。」
リナが嘲笑った。
「不倫して産んだ子じゃないの? かわいそうに。」

その時、病室の入り口に1人の人物が現れた。
それは私の幼馴染みであり、現在一常寺グループの副社長を務める神宮寺連だった。
「佐藤君、もう十分だ。君の人生の終わりを、最高の舞台で飾ってあげよう。」
高志の顔から血の気が引いた。
一常寺グループ——日本経済界の獣として知られる巨大企業。その総帥の娘が私だった。
高志は私を「金も家柄もない女」と見下していたが、実は彼の会社すら一常寺グループの影響下にあった。
結婚前、私は自分の身分を隠した。普通の家庭の娘として、彼の本当の愛を確かめたかったから。
しかし彼は私の優しさを都合の良い道具としか見なかった。
披露宴当日、会場は一常寺の息のかかったスタッフで固められていた。
高志が勝ち誇って私を呼んだその舞台で、私は本当の姿を明かした。
「皆さん、今日の主役は私です。」
モニターに映し出されたのは、高志の不正経理、リナの偽装妊娠と借金、時子の財産横領の証拠だった。
高志は膝から崩れ落ち、叫んだ。
「俺は佐藤家の誇りだ!」
しかし真相は残酷だった。彼の「佐藤家の血筋」すら、時子が捏造した偽物だった。
本当の父親は一常寺グループの監査役として彼を見守っていた有馬専務だった。
有馬は悲しげに言った。

「君は私の息子だと思っていたが、時子が別の男との子を佐藤家の跡取りとして偽っただけだった。」
高志の人生は完全に崩壊した。
彼は会社をクビになり、財産を差し押さえられ、詐欺容疑で逮捕された。
リナも借金まみれで逮捕。時子も佐藤家との親族関係不存在が確定した。
すべてが終わった後、私は神宮寺連と正式に結婚し、息子に一常寺の名を継がせた。
高志から届いた最後の手紙には、ただ一言だけ書かれていた。
「惨めな自分を自覚したよ。」
私はその手紙を静かに破り捨て、窓の外の青い空を見上げた。
私の人生は今、ようやく本当の始まりを迎えた。


