私は感情を押し殺し、弓が起きてくるのを待った。朝、弓がリビングに現れると、私はいつものように優しく声をかけた。
「お帰り。出張お疲れ様。洗濯物少し仕分けしておいたよ。」
弓は一瞬ハッとした顔を見せたが、すぐに笑顔を作った。
「ありがとう。気遣ってくれて。」

彼女は素早くポーチを抱え込み、胸に押し当てた。その手には「絶対に奪われるものか」という強い力がこもっていた。
私は何も知らない夫を演じ続けた。弓は私に卵焼きを作り、コーヒーを淹れ、甘い声で「いつも家事を手伝ってくれて感謝してる」と微笑んだ。
その笑顔の裏に隠された欲望が、今は透けて見えた。
昼休み、親友の剣一から電話がかかってきた。
「誠、元気か? ゆみさんも忙しそうだな。」
私は自然に振る舞いながら、すべてを悟った。彼らは私を完全に欺いていると思い込み、油断していた。
私はすぐに探偵事務所へ行き、証拠を集め始めた。吉田弁護士に相談し、反撃の準備を整えた。

弓は私をモラハラ夫に仕立て上げ、離婚協議書を突きつけてきた。木村弁護士が同席し、捏造された音声データを再生した。
「小母さんの介護費用、もっと誠さんの小遣いを削って出せないの?」
「そんなことできるわけないだろう。お前がもっと働け。」
音声は巧みに編集されていた。私は冷静に吉田弁護士に任せ、証拠を積み上げた。
法事の日、親族が集まった控室で私は全てを暴露した。吉田弁護士が証拠を並べ、弓と剣一の不倫、財産横領、捏造の事実を明らかにした。
剣一が到着し、2人は互いに責任をなすりつけ、崩れ落ちた。親族の非難が2人に浴びせられた。
私は新しい協議書を突きつけ、2150万円の全額返還と慰謝料500万円ずつを要求した。2人は震える手でサインした。

弓はマンションから出て行き、剣一は会社で左遷された。彼らの人生は破綻した。
3ヶ月後、私は新しい生活を始めていた。母を良い施設に移し、娘の7と穏やかな時間を過ごす。朝は自分でコーヒーを淹れ、ゆったりとした朝食を取る。
失ったものは大きいが、守り抜いた尊厳と未来がある。
私は窓を開け、秋の風を感じながら静かに空を見上げた。
これから始まる、私だけの人生を。


